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洗浄は『見えない汚染との闘い』医療機器洗浄とは異なる産業用洗浄の紹介
2025年11月04日11月を迎え、澄み切った秋の空気が心地よい季節となりました。秋の夜長、皆さまはどのようなことに思いを馳せていらっしゃいますか?秋と言えば『食欲の秋』と言われるぐらい、美味しい食べ物が旬を迎えワクワクする晩酌を想像するのは私だけでしょうか。(笑)
そして、秋と言えば『芸術の秋』とも言われ学びを深めていくにも良い季節です。この短い季節を無駄にするにはもったいないと思い、このコラムを読まれる皆様の課題を解決できるヒントをお渡しできる学びは何かを考えました。
中央材料部の皆さまにとって、洗浄とは患者様の安全に直結する『汚染物質を取り除く衛生上必要な処理』であり、日々の緊張感とともに確実な処理が求められます。しかし、時に複雑な構造を持つ手術器具の洗浄に頭を悩ませることもあるのではないでしょうか。この課題に焦点を当て考えていると「何か、他の分野の洗浄からヒントが得られないだろうか?」と思いました。
そこで今回のコラムでは、医療系洗浄とは一線を画す産業用洗浄の世界をご紹介し、その考え方や技術が、皆様の日常業務に新たな視点をもたらす学びとなればと思いながら書き進めていきます。

★医療系洗浄と産業系洗浄の『目的』と『汚れ』の大きな違いは?
一般的に洗浄とは汚れを落とす技術という認識が強いかもしれません。しかし、医療と産業では、
その最終目的とアプロ ーチが根本的に異なります。
医療系洗浄
・目的は、衛生上必要な処理で汚染物質(菌や有機物)の除去と無機物除去による医療器材の機能維持
・主な汚染物は、有機物(タンパク質・血液・体液・脂)、無機物(錆び・硬度分)
・目指す清浄度は、菌数 -4 log10リダクションを目指す
産業系洗浄
・目的は、製品の機能性・性能向上と製品の付加価値を高める創造的な洗浄を行う
※創造的な洗浄とは、既成概念にとらわれず、柔軟な発想や新しいアイデアを取り入れることによって、物本来の性能を引き出したり、新たな価値や機能を創出したりすることを指します。
・主な汚染物は、粒子汚れ(無機個体粉)、有機汚れ(油分・樹脂・接着剤・フラックス・離型剤)、
無機汚れ(酸化膜・表面層形成膜)
・目指す清浄度は、汚れのレベルに応じて、一般洗浄(1 ㎛以上)・精密洗浄(1 ㎛以下)・
超精密洗浄(分子レベル)と細分化されている
中央材料部の皆さまが扱う医療系の汚れは、主に感染リスクを伴う生物学的・化学的な汚染物質であり、その除去目標は明確に『感染管理』にあります。対して、半導体や精密機器分野を中心とする産業系の汚れは、製品の性能を阻害する微細な粒子や化学物質であり、その除去は『製品の機能発揮』という創造的な目的があります。
ポイントを下記にまとめると
・医療系洗浄は、汚染を除去し、器材を安全な状態に戻すことです。
・産業系の洗浄は、汚染を除去し、製品をより高性能な状態へ導くことです。
産業洗浄の目指す超精密洗浄は、分子レベル以下の汚染物を除去し製品のポテンシャルを最大限に引き出すことを目的としています。これは、医療器具の洗浄においても、『単に汚れを落とすだけでなく、器材の機能を守り最適な状態に保つ』という視点に活かせるのではないかと考えます。

★医療系洗浄でも活かせる新たな創造に役立てる技術とは?
医療器具洗浄において、最も難しい課題の一つは『見えない構造の汚染物』の除去です。
特に、内腔物や複雑な関節を持つ器具のタンパク質残留は、洗浄の悩みの種です。
ここで産業系洗浄の特に半導体や電子部品分野で培われた『精密洗浄技術』は、
『見えない構造の汚染物』の除去との闘いに大きなヒントを与えてくれると思います。
・産業系洗浄で使用される精密洗浄技術の代表格は、ナノレベルのパーティクル(微粒子)や
金属汚染を除去するために純水や特殊な薬液を噴射する『メガソニック超音波スプレー洗浄』
で洗浄物を圧力から守る高度な技術を有している洗浄方法で、この洗浄方法は、洗浄後の
洗浄物表面の残留物を分子レベルまで除去することが可能で完成製品の品質向上に直結させることを考えています。
この考え方を医療系洗浄に応用すれば、タンパク質などの残留を極限まで低減させることで、
滅菌効果を最大化し、医療器材表面のダメージを減らしの寿命を延ばすこと(コスト削減)にも繋がります。
医療系洗浄は、感染制御の目的を達成するだけでなく、医療器材の機能性維持や医療器材の
使用可能年数を伸ばすことによる資源の最適化という新たな価値創造にも役立てられます。
・ヨーロッパでは、イタリアのあるメーカーがこの『メガソニック超音波スプレー洗浄』
に似た洗浄装置を 医療系で販売をスタートさせていました。今後日本市場にも参入があるかもしれません。
★産業系洗浄から医療系洗浄で発展が期待される技術は?
産業洗浄で現在使用される技術の中には、今後、医療系洗浄の課題解決に貢献し得るものが
多く存在します。
・スノーエアロゾル洗浄
・医療系洗浄への活用は、水分を嫌う繊細な電子機器やモーター内蔵器具・
光学系機器の洗浄に有効で、水を使わず物理的効果を生み出す洗浄スタイルで、
水を使えない医療機器再生に使用できるのでは?
・レーザー・プラズマ洗浄
・錆び除去や不動態被膜剥離による変色改善に有効で、局所的な高エネルギーで
化学薬品を使わずに表面層の汚染剥離と不動態化被膜再形成に有効なので、錆で悩まれ
ている現場には有効な洗浄スタイルでは?
★医療系洗浄の未来は?
医療現場では、手術の高度化に伴い、洗浄の難易度がますます高まっています。
今後は、従来の洗浄剤とウォッシャーディスインフェクターの洗浄の仕組みだけではなく、
産業分野で当たり前とされている『洗浄プロセスの科学的な評価を標準化しコストをかけてでも、
品質をより上げていく』これを取り入れることにより、本当の意味での滅菌を保証する部門になる
のではないでしょうか。
ヨーロッパでは、洗浄評価の規格化が進み、洗浄の『見える化』が徹底されています。
輸入製品を多く扱うNCC・FIクリーン事業部も、この世界的な潮流を踏まえ、皆様の洗浄の未来を
支える一助となりたいと願っています。
★おわりに
中央材料部の皆さまの、患者様の安全と医療の質の向上に貢献する日々の努力に、
改めて敬意を表します。
今回コラムが、日頃の洗浄業務に新たなヒントを与え、皆さまの「にっこり」とする瞬間を
生み出せれば幸いです。今後とも、NCC・FIクリーン事業部の情報提供コラムをどうぞよろしくお願いいたします。NCC Column LIST

