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医療機器洗浄アドバイザーコラム 第56弾
2026年03月12日今回の医療機器アドバイザーコラムは、中四国担当の川端が担当させて頂きます。今回は、ヨーロッパではスタンダートとなった!!ある洗浄剤にテーマを決め書き進めて行かさせて頂きます。
『医療器具洗浄のパラダイムシフト:アルカリと酵素が織りなす次世代の洗浄戦略』
1)はじめに
医療現場における器具洗浄は、患者の安全を守る「再処理」プロセスの出発点であり、最も
重要な工程です。かつては強力な化学薬品による洗浄が主流でしたが、器具の高度化や感染
症リスクの変化に伴い、洗浄剤に求められる役割も進化してきました。

2) 従来のアルカリ洗剤の特徴と課題
従来の医療器具洗浄において、主役を担ってきたのは「強アルカリ洗剤」でした。pH 11 を
超える高いアルカリ性は、タンパク質を膨潤・加水分解させる強力な化学力を持ちます。
【特徴】
アルカリは血液などの有機物汚れを物理的に「ふやかす」力に優れています。また、一部の
微生物に対する除菌効果も期待でき、ウォッシャーディスインフェクターでの高温洗浄と
組み合わせることで、極めて高い洗浄効率を発揮してきました。
【課題】
しかし、その強力さゆえの代償も少なくありません。三つの課題をあげておきます。
一つ目は器具へのダメージ。ステンレス製の器具であっても、繰り返しの強アルカリ洗浄は
表面の不働態被膜を劣化させ、錆や腐食の原因となります。またアルミニウムや樹脂、光学
レンズを含む内視鏡などには使用できません。
二つ目はタンパク質の凝固。アルカリ濃度や温度の管理を誤ると、血液タンパクが「焼き付
いた」ように固着し、かえって除去が困難になる場合があります。
最後に安全性の懸念が挙げられます。 強アルカリは人体への刺激が強く、作業者の皮膚炎
や、廃液による環境負荷が大きな課題となっていました。
3) 従来の酵素洗剤の特徴と課題
次に見ていくのは酵素洗剤です。アルカリ洗剤の欠点を補うものとして普及したのが「酵素
洗剤」です。主に中性付近で働くプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を中心とした処方が
なされてきました。
【特徴】
最大のメリットは「器具への優しさ」です。中性pH で汚れのみを選択的に分解するため、
デリケートな内視鏡や精密な鉗子の洗浄に適しています。酵素が「分子のハサミ」として汚
れの鎖を断ち切るため、ブラッシングの負担を軽減できる点も画期的でした。
【課題】
一方で、酵素特有のデリケートさが運用上の壁となりました。ここでも3つの課題を述べま
す。
まず洗浄範囲が限定的であること。初期の中性酵素洗剤はタンパク質分解に特化しており、
手術器具に付着した頑固な脂肪汚れや、粘液(多糖類)の除去には限界がありました。
また酵素の安定性の低さが挙げられます。酵素はタンパク質の一種であるため、熱や保存環
境に弱く、水で希釈した瞬間から「自己消化」によって活性が失われていくという欠点があ
りました。
最後にバイオフィルムへの無力さがあります。細菌が形成する強固なバリア(バイオフィル
ム)を突破するのには単一の酵素だけでは難しかったのです。
4) 今後広がっていくアルカリ酵素洗剤の特徴と課題
現在、そして今後の主流となるのが、両者の長所を統合した「アルカリ酵素洗剤」です。
これは、アルカリ耐性を持つ特殊な酵素の開発によって実現し、ヨーロッパでは既に主流と
なっており、ほとんどの施設で使われるようになっています。
【特徴】
最新のアルカリ酵素洗剤は、中等度のアルカリ(pH 9~11)を基盤としています。
その特徴のひとつめはマルチ酵素の相乗効果。プロテアーゼ、リパーゼ(脂肪分解)、アミ
ラーゼ(糖分解)、さらにはバイオフィルムを破壊するセルラーゼなどがブレンドされてい
ます。アルカリが汚れを緩め、そこへ複数の酵素が多角的に攻撃を仕掛けるという波状攻撃
が可能です。
ふたつめの特徴はバイオフィルムの除去能力が向上していることです。従来の洗剤では落
とせなかった「ヌメリ」の骨格を分解し、隠れた細菌まで洗い流す能力が飛躍的に向上して
います。
三つめは低温での活性向上です。酵素の改良により、比較的低い温度域(30℃~55℃)でも
強力な洗浄力を発揮するため、エネルギーコストの削減にも寄与します。
【課題】
今後の課題は、この高性能な「液体」をいかに正しく使いこなすかという「標準化」にあり
ます。高性能ゆえに、適切な濃度管理や温度管理がなされない場合、そのポテンシャルを半
分も発揮できないからです。

5) 現場で使用する上で大事なこと
いかに優れたアルカリ酵素洗剤を導入しても、現場での運用が「適切」でなければ、医療事
故のリスクは拭えません。現場スタッフが守るべき重要なポイントは以下の3 点です。
1. 「乾燥」という最大の敵を防ぐ
酵素は水がある環境でしか働けません。血液が乾燥して変性すると、どんなに優れた酵素でも分解に時間がかかります。使用直後の予備洗浄や、乾燥防止用のスプレー・浸漬を徹底す
ることが、後の洗浄工程を劇的に楽にします。
2. 酵素の「適温」を守る
「熱いお湯のほうがよく落ちる」という思い込みは禁物です。60℃~70℃以上の熱水は酵
素を即座に死滅(失活)させます。逆に冷水では酵素は眠ったままです。40℃~50℃前後と
いう「酵素のゴールデンゾーン」を維持するための温度管理こそが、洗浄の質を左右します。
3. 化学の力を過信せず、物理的洗浄を組み合わせる
アルカリ酵素洗剤は強力ですが、魔法ではありません。複雑な構造の器具やチャンネル内に
は、適切なフラッシングや、汚れを露出させるための超音波洗浄が必要です。「化学(洗剤)
+物理(振動・水流)+時間」のバランスを最適化する意識が求められます。
6)おわりに
アルカリ酵素洗剤の進化は、医療器具洗浄を「力任せの作業」から「精密な化学反応」へと
変貌させました。洗剤の特性を正しく理解し、愛情を持って器具を扱うことが、最終的には
患者の安全と、医療現場の信頼を守ることに直結するのです。
以上、医療現場での洗浄改善にお役立ていただけますと幸いです。
NCC ではこれら一連の洗浄業務をトータル的にサポートさせて頂けます。
今回ご紹介したアルカリ酵素洗剤から予備洗浄や超音波洗浄、さらにはそれらによって
達成された洗浄クオリティの結果診断まで。
洗浄のお悩みはぜひNCC に聞いてみてください!NCC Column LIST

