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医療機器洗浄や運用ノウハウなど、現場に役立つ情報をコラム形式で発信します。

2026.09.03

なぜWDを通しても再洗浄が減らないのか?|乾燥変性のメカニズムと解決策

WD洗浄後も再洗浄が発生する原因を、タンパク質の乾燥変性という科学的視点から解説。年間120施設以上を支援する医療機器洗浄アドバイザーが、標準化された前処理手順をご紹介します。

なぜWDを通しても再洗浄が減らないのか?|乾燥変性のメカニズムと解決策

なぜWDを通しても再洗浄が減らないのか?
〜乾燥変性のメカニズムと、標準化された前処理という解決策〜

「手順通り丁寧に洗っているはずなのに、なぜか可動部に血液が残る」
「人によって洗い方にばらつきがあり、ベテランが担当しないと再洗浄率が上がる」

こうした声を、私はこれまで8年以上、年間120施設以上の中央材料室を訪問する中で数えきれないほど耳にしてきました。

再洗浄が発生すると、単に作業時間が伸びて残業が増えるだけではありません。
後続の滅菌工程の遅延や、手術室への器材供給遅延という、医療安全上の重大なリスクに直結します。

現場での頑張りや精神論に頼る運用では、この問題を解決することはできません。
今必要なのは、「なぜ落ちないのか」という構造を理解し、現場の負担を減らす仕組みをつくることです。


再洗浄が減らない本当の原因は、WDの限界への誤解にある

再洗浄が減らない最大の原因は、ウォッシャーディスインフェクター(WD)という機械の構造的限界への誤解と、前処理段階における「汚れの乾燥」に対する無策にあります。

WDは高度に自動化された優れた洗浄消毒機器ですが、プログラムされた「一律の温度・時間・水圧・洗浄剤濃度」でしか稼働できません。

一方で、手術で使用された血液や体液などのタンパク質汚れは、空気中に晒されて乾燥すると不可逆的な構造変化(変性)を起こし、物理的・化学的に器材表面へ強力に固着します。

【術後器材の放置】→【タンパク質の乾燥・変性】→【不可逆的な強力固着】→【WDの水圧・洗浄剤だけでは剥離不能】

日本医療機器洗浄消毒学会のガイドライン等でも示されている通り、洗浄品質を保つ基本は「汚れを乾燥させないこと」です。

乾燥して固着したタンパク質は、WDの標準的なアルカリ洗浄や通常水圧(約0.15〜0.2MPa程度)だけでは、短時間で完全に剥離することはできません。

さらに、近年の医療技術向上に伴い、可動部を持つ複雑な鉗子や狭小な内腔器材が増加しています。
どれほど高性能なWDであっても、物理的に水流が直接当たらない「ノズルの死角」や「狭い隙間」は必ず存在します。

投入する前の段階で汚れの状態を一定レベルまで整えておかなければ、構造上、洗浄不良が起きるのは避けられません。


中材で特に多いトラブル事例

年間120施設以上の現場を訪問する中で、特にここ5年間で急増している相談が2つあります。
「手術室での使用後から中材への回収までに時間がかかり、固着した血液トラブル」と「複雑構造器材の可動部や内腔の再洗浄」です。

事例1:回収遅延による血液固着

ある病院では、手術の長時間化により、手術終了から中材に回収されるまでに1〜2時間のタイムラグが生じていました。
中材に届いた頃には血液が乾ききっており、そのままWDに投入した結果、ハサミや鉗子の接合部(ボックスロック部)に固着した血液が落としきれず、毎日のように再洗浄が発生していました。

事例2:用手洗浄の過度な依存と属人化

吸引管や持針器の細かい部分に固着した汚れに対し、ベテランスタッフが手作業で強固にブラッシングを行っていました。
その結果、器材の摩耗や傷を早めるだけでなく、「ベテランAさんが担当すると綺麗になるが、新人Bさんだと再洗浄になる」という、完全な属人化に陥っていました。


技術解説:なぜ乾燥したタンパク質は落とせなくなるのか

なぜ、一度乾燥したタンパク質は通常の洗浄工程で落とせなくなるのでしょうか。
専門的なメカニズムを解説します。

タンパク質の乾燥変性と分子間力

血液中に豊富に含まれるアルブミンやフィブリノゲンなどのタンパク質は、乾燥プロセスにおいて水分が失われると立体構造が崩れ、疎水性相互作用によって相互に強く架橋・重合します。

これが「乾燥変性」です。

乾燥変性したタンパク質は不溶化し、ステンレス(SUS304/SUS316)などの金属表面に対して非常に強力な分子間力(水素結合)で吸着します。

WDで使用される一般的なアルカリ洗浄剤は、未乾燥のタンパク質に対しては高い加水分解力を発揮しますが、一度架橋が進んだ高度な乾燥固着汚れに対しては、標準的な洗浄時間(5〜10分程度)内で分子の内部まで浸透・分解しきることができません。

流体力学的な限界とノズル死角

WDの洗浄原理は「物理的剥離(水圧)」と「化学的溶解(洗浄剤)」の相乗効果です。
しかし、接合部の隙間や内腔内部では、流体抵抗と表面張力の影響により、WDのノズルから噴射される水流の動圧が直接伝わりません。

酵素噴霧スプレーの技術的作用機序

この物理的・化学的限界を打破するのが、術直後または回収直後に行う「酵素入り予備洗浄スプレーによる前処理」です。

○物理的アプローチ(乾燥防止)

高粘度のスプレー成分が器材表面を皮膜状に覆い、湿潤環境を維持します。
空気との接触を遮断することで、血液の乾燥・固着を物理的に阻止します。

○化学的アプローチ(先行分解)

配合されたプロテアーゼ(タンパク分解酵素)が、常温下であっても血液中のタンパク質のペプチド結合を即座に切断し始めます。

これにより、WDに投入される頃には、汚れが「水溶性で剥離しやすい状態」へと変化しています。
WDの性能を100%引き出すための「事前の化学的セッティング」こそが、酵素スプレーの真の役割です。


除去・対処方法:標準化された前処理の2ステップ

再洗浄を未然に防ぎ、作業の属人化を排除するための前処理手順をご提案します。

ステップ1:回収時の酵素スプレー噴霧(1次洗浄の代替・時短)

手術室から回収コンテナに入れる段階、または中材到着直後に、器材全体(特に接合部)へ噴霧します。
これにより、浸漬用シンクを占有する長時間のつけ置き(1次洗浄)をカットできます。

構造に応じた前処理も、あわせて行います。

  • 可動部のある器材:スプレー後、接合部が開いた状態でWDラックにセット(死角をなくす)
  • 内腔器材:専用ガンやシリンジを用い、内部に洗浄液を通液して組織片などの固形負荷を事前に押し流す

ステップ2:WDへ投入

乾燥が阻止され、酵素分解が進んだ状態でWDへセット・洗浄を開始します。

メリットと注意点

メリット

シンクでの浸漬作業や手作業のブラッシング時間を大幅に削減できます。
作業の手順化により、新人スタッフでもベテランと同じ洗浄品質を維持できるようになります。

注意点

スプレーは外観表面への塗布が中心となるため、細い内腔構造の内部へは「通液作業」を組み合わせる必要があります。


私たちの考え

私たちNCCでは、単に「優れた洗浄剤やスプレーという製品をお届けすること」を目的としていません。

私たちが目指しているのは、中央材料室の皆様が個人の経験や勘、精神論に頼ることなく、誰もが安全かつ効率的に高品質な再処理を行える、再現性のある仕組みを構築することです。

洗浄不良が発生する根本的な原因は、現場スタッフの注意不足ではなく、洗浄プロセスの構造にあります。

業務が多忙を極める中で、手作業の負担を増やすのではなく、科学的根拠に基づいたツールと手順を組み込むことで、現場の労力を最小限に抑えながら再洗浄率を減らしていく。
これが、洗浄改善の専門家としてのNCCの基本姿勢です。


まとめ

再洗浄率の削減と業務の時短化は、ベテランの技術に依存する属人化から、誰もが正しく処理できる標準化への転換によってのみ達成されます。

  • 自施設の回収動線に合わせた前処理手順を設計したい
  • 特定の複雑器材で、どうしても再洗浄が減らず困っている

このような現場固有のお悩みに対し、年間120施設以上の改善を手掛ける専門アドバイザーが、現状の工程分析から最適な手順書の構築、スタッフ教育まで伴走してサポートいたします。

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