なぜ管腔器材の洗浄や点検で、血液残存が起きてしまうのか?|前処理手順と見直しポイント
規定どおり洗浄しても、点検で吸引管や鉗子の関節部に血液残存が見つかる原因を、気泡と水流の物理的メカニズムから解説。現場で防ぐための前処理手順と見直しポイントをご紹介します。
なぜ管腔器材の洗浄や点検で、血液残存が起きるのか?
~ 現場で防ぐための前処理手順と見直しポイント ~
「規定の手順どおりにウォッシャーディスインフェクター(WD)を回したのに、点検で吸引管の奥や鉗子の関節部から固着した血液が見つかる」
その原因は、洗浄作業を担当している担当者の注意不足ではなく、器材の構造と洗浄の物理的なメカニズムにあるのかもしれん。
このコラムでは、血液残存が起きる仕組みと、現場の負担を増やさずに防ぐための前処理手順をご紹介します!
目次(このコラムでわかること)
- 血液残存はなぜ、点検で見つかるのか
- 管腔構造と気泡、水流の物理的メカニズム
- 海外ガイドラインに学「即時処理」と管腔フラッシング
- 現場の負担を増やさずに、品質を高める改善アプローチ
- 明日から実践できる3つの小さなアクション
「しっかり洗っているはずなのに…」点検エリアで発覚する血液残存の悩み
中央材料室(中材)の現場で多くの管理者やリーダーが直面するのが、「規定の手順を守り、WDでプログラムを実行したにもかかわらず、点検時に吸引管の奥や鉗子のボックスロック(交差部)から、固着した血液が見つかる」という問題です。
現場のスタッフは、マニュアルどおりに作業を行っており、決して作業を怠っているわけではありません。
「決められた手順を踏んでいるのに、なぜ残ってしまうのか」
「スタッフごとの作業のばらつきが原因だろうか」
「また注意喚起をしなければいけないのか」
これらの悩みを一人で抱え込む管理者の方も少なくありません。
しかし、丁寧な作業をしていても発生する血液残存の多くは、作業者の不注意や熟練度ではなく、器材特有の複雑な構造と、洗浄の物理的なメカニズムに起因しています。
なぜ起きるのか?管腔構造と空気、水流の物理的メカニズム
管腔器材や関節部を持つ器材で血液残存が起きる背景には、大きく分けて3つの物理的要因があります。
1. 気泡(エアロック)による洗浄液の遮断
細く長い管腔の内部や、鉗子の交差部、ネジ部分は、単に洗浄槽へ沈めるだけでは、内部の空気が抜けきらないことがあります。
残った空気が「気泡」となって滞留し、洗浄液や水流が汚れに接触するのを物理的に妨げます。
その結果、気泡が存在する部分では血液の可溶化が進まず、乾燥・固着につながります。
2. 自動洗浄機(WD)の水流の限界
WDのスプレーアームから噴射される水流は、器材の外観の洗浄に高い効果を発揮します。
一方で、細い管腔の内部にまで強い水流を自動で直接押し通すことには、構造上の限界があります。
WDへの投入前に物理的なフラッシングが行われていない場合、内部の汚れは水流が届かない「死角」となってしまいます。
3. 浸漬時の角度と関節の開閉状態
交差部が閉じたまま、あるいは管腔が水平や上向きの状態で洗浄液に浸漬されると、内部の空気が抜けず、前処理の効果が大きく下がります。
このように、血液残存は「注意不足」ではなく「構造リスク」によって起きているため、個人への注意喚起だけでは解決できません。
海外ガイドラインに学「即時処理」と管腔フラッシング

米国医療機器振興協会(AAMI)が発行する国際的なガイドライン「ANSI/AAMI ST79」などの世界的な標準知見では、管腔器材の使用現場(ポイント・オブ・ユース)における「即時処理」が重視されています。
手術室や処置室での使用直後に、有機物汚れが乾燥しないよう湿潤状態を保ち、管腔内部へただちに水や酵素洗浄液を通す「即時フラッシング」が推奨されています。
タンパク質や血液は、一度管腔内で乾燥、凝固してしまうと、その後に自動洗浄や化学洗剤を用いても、除去が極めて難しくなるためです。
中材の現場では、手術室での一次処理を徹底することが難しい場合もあります。
その場合でも、器材が中材に到着した最初の瞬間に、気泡を抜きながら管腔内へ洗浄液を行き渡らせる簡易的なフラッシング手順を組み込むことが、血液固着を防ぐ有効な対策のひとつになります。
現場の負担を増やさずに品質を高める改善アプローチ
私たちNCC FIクリーン事業部では、単に手作業を増やすのではなく、現場の作業スペースや、血液残存が頻発する器材の確認を通じて、次の4つの軸を両立する改善をご提案しています。
- 患者安全
感染リスクの低減につながる確実な洗浄品質の確保 - 洗浄品質の標準化
個人の感覚や熟練度に依存せず、誰もが同じ清浄度を得られる仕組み作り - スタッフ負担の軽減
シリンジによる繰り返しの手作業などで生じる、手指の疲労や作業負担を軽減 - 業務継続性(BCP)
日常の手順が標準化されていることで、災害や断水時にも最小限の水と手作業により、安全な再生処理を維持できる体制
「丁寧にフラッシングを行うと作業時間が伸びる」という懸念に対しては、専用の水流や気流ガンアタッチメントの導入、浸漬カゴのレイアウトの見直しなど、作業負担を増やさずに標準化するための具体的な手段があります。
明日から実践できる3つの小さなアクション
自施設の現場において、今すぐ確認、実践ができるアクションは次の3点です。
1. 「浸漬角度」と「空気抜き」の動作を観察する
スタッフが浸漬槽へ器材を入れる際に、管腔内の空気が抜けるよう斜めに沈めているか、関節部や交差部が開いた状態になっているかを観察、確認します。
2. 注意器材を3つに絞り込む事
過去に血液残存が多発した吸引管などを3つ特定し、「この器材は必ず何回フラッシングする」という明確なルールを決め、チーム内で共有します。
写真付きの手順書を掲示する
「シリンジで〇ml通水する」
「交差部を開いて浸漬させる」
このような洗浄のポイントを、視覚的かつ直感的に理解できるシートにまとめて、前処理エリアに掲示します。
まとめ
管腔器材や交差部の血液残存は、作業者の注意力不足ではなく、「気泡の滞留」と「水流の届きにくさ」という物理的な構造要因で起きています。
個人の不注意を責める運用から、構造的なリスクに対処する「手順と仕組みの標準化」。
その転換が、洗浄品質の向上と現場の負担軽減を両立させるための、有効的なアプローチのひとつです。
皆様の中材では、吸引管を浸漬する際に、管内の空気がしっかり抜ける角度や手順が、チーム全体で共有されているでしょうか。
前処理手順の見直しや洗浄品質の向上について気になる点がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
現場の工程を拝見しながら無理のない最適な解決策を、ともに整理いたしますので、ご相談がある方はぜひお気軽にお問合せ下さい。